ギャラクシアン一人旅-１

西暦２×××年　火星

真夜中・・・僕はベッドから降り、
冷蔵庫からロックグラスと氷を取り出した。

窓の外に目をやれば、相変わらずの喧騒と眩しいネオンの光。
あぁ・・・今日もうるさくて、寝られたもんじゃない。
棚からブランデーのビンを取り出し、
氷をブチ込んだグラスへひっくり返す。

・・・１０年前、G.C.G（銀河中央政府）は
温暖化と大気汚染、未知のウィルスの増殖を理由に
地球を『立入制限惑星』から『立入禁止惑星』へと変更する、と発表した。

いわば人間のルーツとも言える惑星が『死の星』と認定されたことで、
人類の行く末に不安を感じる者が多くなったのか、
それ以来銀河全体には『人類の終末』的な退廃ムードが広がり続けている。
経済の成長は止まり、中小企業が次々と潰れ、少子化は進む一方。
街には失業者やニート、労働意欲を失くしたサラリーマンが溢れ
毎晩のようにオマツリ騒ぎを繰り返しているこのご時世。
儲かってるのは酒場と賭場くらいなものだ。


かくいう僕も先月上司から、
『君、明日から休んでいいよ。　え？いや、ずっとだよ』
などというありがたいお言葉を頂いた、新人ニートの一人だ。
まぁ『ガソリン車の修理工』などというもはや時代遅れの仕事など
いずれこちらから辞めてやるつもりではいたのだが。

とはいえ、外で騒いでいる連中のように
毎日をムダに浪費しながら生き続けるなんてできない。
かといってこんな時代にまじめに仕事をして、
スズメの涙ほどの給料を老後に向けて貯蓄するなんてのも、まっぴらごめんだ。
どうする・・・・これからどうなる、僕。


外は相変わらずの騒がしさで、今日も明け方まで寝られそうにない。
まぁこんなこともあろうかと、
古物屋で『DVD』という記録メディアを買ってきてある。
(昔の映画やテレビ番組を見るためのカートリッジだ。
　古いものを集めるのは、僕の唯一の趣味なのだ)
今夜はコイツで時間を潰すとするか。
「えぇと、今日は・・・・『世界の車窓から大全集』にするか」



・・・・。






・・・・・・いいなぁ、地球・・・・。







あっ・・・・こういう所に住んでみたいな・・・・・。





・・・・旅とか、してみてぇなぁ。





！！！
ぉあっ！　　そうだ！旅に出よう！

そうだ。こんな廃れた殺風景な星から抜け出して、
このテレビにの中の地球のように、自然豊かで素晴らしい星を探す旅に出るんだ！
そしてそこに永住しよう。自給自足で。
このまま無気力に毎日を過ごすより、全然良いはずだ。
大丈夫。きっと何とかなる・・・・なんとでもなるさ、僕。



＜２時間後＞

僕はリュックを背負い、アパートの階段を駆け下りると
原付(原子力推進式自転車:100cc相当出力)に飛び乗った。
まずはこの星を脱出するため、都内にあるデンコードー（火星中央店）へ行き
レジャー用の小型宇宙船を買おう。

東の空が鮮やかに明ける・・・・胸がどきどきしてきた。
何か新しい事を始める時のこの感覚を、僕は久しぶりに思い出していた。

さぁ、出発だ！