ギャラクシアン一人旅-７

＜海王星　宇宙港＞

『・・・・では、ガイドレーザーに従い
　そのまままっすぐ進んでください。
　アクセルは一定に保ち、磁力線圏内に入りましたら
　ハンドルから手を離してください』

「はい」


オペレーターの指示通り、
海王星の管制局から伸びるガイドレーザーに
宇宙船フロントディスプレイの照準を合わせる。

自分で運転して入星するのは初めてだったから
結構緊張したけど・・・なんとかうまくいきそうだ。

＜海王星・宇宙港　ロビー＞

さて、ひとまず無事に海王星に着くことが出来た。
ここからすぐに手続きをして
衛星『ネレイド』に向かうことも出来るが・・・
せっかくの一人旅だ。せっかちに目的地を目指すより、
寄り道を楽しむ心の余裕ってもんを持ちたい。
とりあえずは５～６泊くらいしてみようかな？


ロビーの看板によると、歩いて１０分ほどで
『海王星セントラルシティ』に着くな・・・
とりあえず宇宙船は空港に置いて、
近場でビジネスホテルでも探してみますか！




＜海王星セントラルシティ南＞

テクテクテク・・・・・


「う～ん、やっぱ火星とはだいぶ雰囲気違うな・・・」


海王星は太陽系で最も端にある惑星のひとつだけど、
火星のような退廃的ムードというか・・・・
『この世の終わり』みたいな悲壮感が薄い気がするな。
街中は活気にあふれてるし、そんなに荒れてない。

そういえば海王星は、
原油や金属とか、地下資源が豊富だって聞いたことがある。
ある意味自立していて、太陽系外ともつながりが深い海王星は
滅亡の一途を辿る地球やその周りで広がる不景気なんて
無関係、って感じなのかもしれない。


「とはいえ、それも表側だけなのかも知れないけどな・・・」



・・・・・・・・・・


「おっ、質屋じゃん」

しばらく歩いたところで質屋を発見した。
ビジネスホテルに行く前に、
いらない持ち物と例の黒い宝石（？）を売っ払って
ある程度お金を確保しておくか。



「すいませ～ん、売りたいんですけど」
「はいイラッシャイ。何売りたいの？」
「え～と・・・『生き物地球紀行』ＤＶＤボックスと、
『世界遺産』ＤＶＤボックスと・・・」
「おぉ！？兄ちゃん、珍しい物持ってるね～」
「えぇ、ちょっと古いんですけどね。売れます？」
「うーん、うちは古物あまり取り扱ってないけど・・・
　個人的にはこういうの好きだし、特別に買い取ってあげようか。
　パチ、パチと・・・・・・これくらいで」
「おっ、マジっすか！？ソロバンとはまた渋い！」


やたっ、助かった！これである程度サイフに余裕が出来たぞ！
海王星で短期のバイトも覚悟してたけど、
これだけあれば当面は凌げそうだ。


「あ、あと、宝石かなんかだと思うんですけど・・・売れます？」


僕は上着の内ポケットから例の黒い宝石（？）を取り出し、
机の上に置いた。


「これは・・・・」



？　質屋のおっちゃんの顔色が変わった。
ひょっとしたら、当たりか？



「兄ちゃん・・・これ、どこで？」
「え？えぇと、買った宇宙船の中にあったんですよ。」


「・・・・・・・・。」



ん？
なんか・・・様子が変だな。


「珍しいもんですか？」

「ん・・・・いや、たいしたもんじゃないと思うけど、
　調べておくよ。預からしてくれんかね」
「あ、いや、じゃあ別に、持っておくんで大丈夫です」


僕は机から黒い宝石（？）を拾い上げ、
内ポケットに戻した。

「そ、そうか・・・あぁ、じゃあ、明日までに調べておくから
　またウチに来てくれんか？良い値で買い取れるかもしれん」

「いいですよ。じゃあ明日の夕方また来ます」


僕は質屋を後にした。




・・・・・・・・・・・


もう少し街の中心に向かって歩くと、
ホテル「東横イン」が見えてきた。
相変わらず東横インは、宇宙のどこにでもあるなぁ。
とりあえずここに滞在することにしようか。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか？」
「いえ。５、６泊くらいしたいんですけど、部屋空いてますか？」
「お一人様ですか？」
「はい。一人旅なんですよ」（ニヤリ）
「は、はぁ・・・」




・・・・・・・・・・・・・・・

＜ホテル「東横イン　セントラル南」２４０２号室＞


窓の外からは、セントラルシティの夜景が見える。
今日は結構くたびれたな・・・・

僕はベッドにリュックを放り投げ、
備え付けのデスクにノートＰＣを開いた。
とりあえずは路銀を確保したことだし、
海王星の観光スポットでも検索してみようか。


あ、いやその前に、
火星でのテロがどうなったのか
ちょっと調べてみようかな・・・



カタカタカタ・・・・




＜Ｇ．Ｃ．Ｇニュース　ヘッドライン＞
　火星時間１０月２５日、
　中央市の家電量販店及び、宇宙港にて発生した爆破事件について、
　Ｇ．Ｃ．Ｇ及び火星警察庁は、正式に
　「ガイア」と呼ばれる反体制グループの犯行と断定。
　犯行グループは現在も家電量販店を占拠しており、
　警察による近隣住民の避難活動が進められている。

　犯行グループの目的は依然不明だが、
　Ｇ．Ｃ．Ｇ及び報道各社に犯行声明が送られており、
　１０年前にＧ．Ｃ．Ｇにより設定された
　地球への『立入禁止惑星』処置の撤回を
　求めているものと推測される。
　犯行声明文については以下のとおり。

　　我々は、銀河系反体制組織「ガイア」である。
　　Ｇ．Ｃ．Ｇに告ぐ。
　　『代行権』は我々の手中にある。
　　我々の要求は唯一つ。
　　地球を開放してくださいおねがいします。




「なんで最後だけ丁寧口調なんだ？」


宇宙港での爆発も、やっぱりテロだったんだな・・・
そしてデンコードーは、まだ占拠されたまま。
こりゃあここ数十年で、最大のテロ事件になりそうな気がするな。

ガイアの目的は、分からないでもない。
地球が『立入禁止惑星』になってから１０年、
太陽系の退廃的ムードはピークを迎えている。
失業率は右肩上がりだし、経済成長率は完全にストップだ。
地球ではＧ．Ｃ．Ｇによる「惑星浄化活動」が続いているらしいけど
なぜか関連ニュースがさっぱり入って来ないんだよな・・・
いい加減、Ｇ．Ｃ．Ｇは全地球人に
状況説明をする必要があるだろうと思う。


分からないのは、『代行権』だな・・・・
なんだか「ガイア」の主張は、
『代行権』を盾にＧ．Ｃ．Ｇを脅しているようにも感じる。
「人質の命が惜しければ───」みたいな。
『代行権』ってのは、よっぽど重要な人かモノか。
『代行権』って言ってＧ．Ｃ．Ｇに通じるのか？
そして、なんでデンコードーを占拠なんだ？
空港を爆破する理由は？
分からないことだらけだな。





ん？






あれ？







「火星時間」？？






「あ゛ぁっ！！！」



僕はデスクの横においてある電話機をつかみ、
「００」をプッシュした。

「はい、フロントです」
「すいません、今日は何日ですか！？」
「はい？えぇと・・・１２月２日です」


「や・・・やっべぇ！！」